ヒマラヤ登山日記2
2017年4月1日
ヒマラヤ日記、その1からのつづき。
2017.03.08
エベレスト街道では埃まみれ(特に、荷揚げをする動物が多く、凄まじい埃!)になりながら、急な登り道を経て標高3440mのナムチェバザールまで上がってきました。ナムチェは、いわばヒマラヤ登山の玄関口であり、シェルパの村と言われています。いつかこの村に来てみたいと夢みていただけに、感激もひとしお。ここでは、高所順応をします。エベレストが眺望できるといわれている、エベレストビューホテルまで400m標高をあげてトレッキングです。
左には6000mのコンデリ山のダイナミックな連なりが。そして目の前には、宗教上、登頂禁止の聖なる山、クンビラ山。
そして右には急峻で稀有な山容、アマダブラム山が! シェルパのサンタマンは、何度もアマダブラム山に登頂経験があり、ベースキャンプ以降もキャンプの設立場所などを指さしながら教えてくれました。彼の話ですと、特に、キャンプ2以降のオーバーハングが厳しく、幾人もリタイヤが出るのだとか。こわっ!
そして、丘を越えてエベレストビューホテルへ。8000m峰のローツェは雲に隠れていたけれど、おにぎりの形をした黒い、エベレストが見えました!
感動の嵐……!
ロッジに帰ると、同じくアイランドピークを目指している、オーストラリア人(政府関係者)と、ドイツ人の女性医師と話す機会があり、ヒマラヤトレックの美しすぎる眺望について意気投合しました。
2017.03.09
恐怖の高山病の気配は出ておらず、調子は良かったため、次なる目的地、標高3860mのTengbocheへ。エベレスト街道のハイライト、エベレストがクリアにお目見えしました! もう、美しいてもんじゃないくらい、胸がいっぱいに満たされました。
ヌプチェ山(7000m峰)の奥の、黒色の壁がエベレスト、右はかの8000mのローツェと、ヒマラヤオールスターが天空にそびえたち、その壮観はずっと見つめ続けたいくらいでした。
6時間ゆっくり歩を進めて、Deboche へ到着。「ビスターリ」(ネパール語でゆっくり、という意味)を掛け声に、高山病予防のため、息が上がらないよう気を使いました。
日本で山指導をしてくれているクライマーの花谷さんから道中もらったメール。「自分の本能を信じて、不安があるときは勇気を出して停滞、大丈夫なときは慎重に歩を進めて」が、凄く心強く、励みになりました。
その晩のロッジでは、イギリス・リバープールから来たイギリス人夫婦と談話。ユニークなジョークに声を出して笑いました。このような笑いは、長く不便で不衛生で、ストレスフルで殺伐とした遠征では必要なんです。
2017.03.10
その朝、起きたら、やはりここは3800m。血中の酸素濃度が低いなー(体感でわかる。体調がよくないから)と実感。
道中、雪がますます本格的に降り続き、寒くて仕方ない! 3月のヒマラヤは天候が不安定で寒いとは聞いていましたが、この日は何枚重ねても身震いするくらい寒く、視界も悪く息も上がり、弱音を吐きたくなりました。
ラマがいる寺院があり、そこでプジャと言われる祈祷を受けにPangbocheへ。安全祈願、来世の幸せ(仏教の世界ではこれが原則)に向けて祈祷を受けます。
登山成功と安全を祈願し、ラマより「来世はもっと素晴らしい人生を」とご加護を拝受しました。その荘厳さ、邪念煩悩だらけの自分の心を見透かされたようで、ラマを見つめると自然と涙が止まらなくなりました。雑念が洗い流されたからでしょうか。
プジャの後は、天候の悪さ(大雪でとにかく寒い!)と、「体調第一」を考えて、そのままこの村に滞在することに決めました。標高は約4000m。じっとしていると、身体の末端から凍っていくような感覚で寒すぎでした! そして、ヤクがうろつき、衛生的とは決して言えない小屋にて、一晩を明かさなきゃいけない辛さ(笑)。遠征とは、色々な試練と対峙します。
2017.03.11
その晩は、何度も夜中うなされて目が覚めました。そう、いよいよ、悲しいことに高山病の気配をまさに感じ始めました。酸素も薄いし……。
あれだけ日本で低酸素トレーニングも重ねてきたのに、こればかりはどうしようもないですね。かつて、植村直己さんの著書で「高山病だけは、人間の意志だとかファイトではどうにもならない」とありましたが、まさに、まさに、と納得です。
息が苦しくて目が覚めて、頭痛が走るこの辛さ。血中酸素濃度は73と、どおりで息が苦しく、気分も悪く、食欲なし、けれど寝たらもっと悪くなる、これが高山病の恐ろしさです。
うなだれた私を見た、ロッジに宿泊していたカナダ人の医師(昨晩は仲良く談話していた仲)が、専門家らしいコメントとともに、ダイアモックス(高山病対策の薬)を分け与えてくれました。この薬については日本人にはあまりなじみがなく賛否両論あるのですが、試してみようと思い、飲んでもう一晩寝ることに。
外は大雪、強風。時折訪れる吹雪がロッジをミシミシと動かします。ネットも繋がらない秘境の村、サンタマンとは「明日、治らなければ下山しよう」という、悲しすぎる会話も口に出しました。胸中は、「ええーー遠征始まったばかりなのに……」。この時ばかりは、つらかったです。
(その3へ続く)