「超少子化 異次元の処方箋」を読んで
2016年5月10日
GW中に読んだ本の一つに、「超少子化 異次元の処方箋」(NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班編)があります。本書は、2016年2月20日にNHKスペシャルで放送された「私たちのこれから #超少子化から安心子育ての処方箋」で取材された内容を元にまとめた一冊です。本著「おわりに」にも登場していて、以前「東洋経済オンライン」の対談でもご一緒した、NHKディレクターの神原一光さんからお勧めいただきました。(その時のコラム 前編 後編)
超少子化 異次元の処方箋
NHKスペシャル 「私たちのこれから」取材班・編
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以下、印象に残ったポイントを列記してみます。()内は、私の感想です。
・かつては「少子化」という言葉さえなかった。60年代には池田勇人内閣が「所得倍増計画」を発表。73年の高度成長期まで、出生率は「2.0」であった。(←2.01!今では考えられませんね…)
・86年に男女雇用機会均等法が施行。94年の少子化対策基本方針(エンゼルプラン)は、現在にも通じる点が多々ある。少子化の背景として「晩婚化による若年層の未婚率の増加」「女性の育児と仕事との両立が容易ではない」等。子育て支援のためには「育休制度の充実や労働時間の短縮など雇用環境の整備を進める」「育児の孤立感、不安感を防ぐ」等。(←つまり少子化問題は今に始まったことではなく、取り組みはずいぶん長いこと、繰り返されてきたわけなんですね)
・男性の非正規雇用の増加が少子化へ影響を与えている。1997年の30代は年収500~699万円代が最も多い、2012年は300万円代が最も多く、この15年間で低所得者層にシフトした。(←たった15年で……驚きです)
・フランスは97年の出生率「1.66」から大胆な施策を実施し、「2.02」まで押し上げた。その一例としては「20歳になるまでの支援総額子ども1人600万、2人では1900万円近くなど、徹底的なお金の支援」「保育サービスの徹底充実、大学学費は年間2万円など教育費の負担の少なさ」(←日本が真似るのは現実的ではないけど、やるなら中途半端ではなく、徹底した支援です)
・人口6千人の岡山県奈義町では、「合計特殊出生率2.81」に成功した。「保育料2人目半額、3人目は無料」「医療費が18歳まで無料」「子育て世帯向けの住居整備」など、地道にやりつづけた成果が奏功した。支援策のために、町全体が徹底経費削減。(←日本にもこんな成功モデルがあったとは!)
・少子化に向けた財源支出案として「消費税3%アップ」「高資産の高齢者から若い世代へ」「お金持ちから若い世代へ」「企業による拠出金」など、実際に議論された。(←これらはNHKの番組で実際に議論された内容。それぞれ想定される成果は読みごたえありました)
・変えるのは「男性の働き方を変える必要がある」日本の父親育休率は、スウェーデン9割に比較して、2.3%。2020年までの13%はほど遠い。(←長い道のり……)
本著にもありましたが、日本は「メンバーシップ型雇用」と言われるように、専門性を極めるよりも様々な経験を積んで育成する傾向が強いため、長時間労働になりやすいと言われています。「長く、誰よりも働く」勝ちパターンという成功体験から、そう簡単に私たちも脱却できません。だから、今でも「新しい働き方」を導入しようと試みるも、現場から抑圧されてキャリアを描けないと、ここ営業部女子課に駆け込む女子も少なくありません。
この本を読んだ後に、今年19歳になる大学生の息子とかわした会話について。現在、私大に通わせる親の平均年収は実家だと約700万、一人暮らしは約900万だといいます。そして、奨学金をもらっている学生は約5-7割。大学に通わせる親の収入の高さ、奨学金利用率の高さに私は驚きました。学生支援機構はその数値は公開していませんが、奨学金利用の3割程度は返金不能に陥っているそうです。本来、勉学を学ぶべき場であるのに、借金地獄を呼んでしまう日本の制度。これでいいはずなんてありません。
少子化。決して一義的な解釈では到底語れないほど複雑化している我が国の大きな課題。しかし、いろいろな視点で、いろいろな人が当事者として考え、動いていくことこそ、小さくても確実な一歩だと思います。
(神原さん、どうもありがとうございました!)